「僕と核」2012

    第四部:がんと免疫

 

< がんの仕組み >

遺伝子の損傷ががん細胞に繋がることは、この数十年間の研究で良く分かっています。
ダメージが短期間でも、悪性腫瘍のような異常繁殖は、何重ものチェック機能を通り抜けた末、長期間を経て起きます。
そして、肝心の修復機能までも劣化したり問題が生じると、深刻化する可能性も上がることになる。

 
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腫瘍には良性と悪性のものがあり、悪性のものは一般的にがん細胞と呼ばれる。
修復に関わる遺伝子とされる[p53]のタンパク質は、第17番染色体にある遺伝子のコードで、ここが破壊されると問題です。
つまり、遺伝子には修復機能があるから大丈夫、と言う説明は説得力がありません。

また、細胞の構造と情報伝達のネットワークは、簡単な図で説明できるようなシンプルな構造ではありません。
精密機器の見取り図のように複雑な世界です。
ミクロの世界で起きるエネルギーの現象は瞬時に連鎖して行く上、一次元の方程式や二次元の図式ではなく、三次元で変化しているのが生命です。

  [遺伝子の破損と修復]

細胞や遺伝子の視点から言えば、放射線が外部から来ようが、体内から来ようが識別はできない。
その代わり、放射線の量には敏感であるため、継続的な外部被ばく、あるいは慢性的な内部被曝は、「非常に特殊な環境」を作りだすことになる。
( X線や放射線は、細胞の活動エネルギーより遥かに大きく、それが頻繁に吸収・変換される事態)

下の図は個人的な解釈を元に、「遺伝子のエラーが残ると問題であって、破棄されれば問題も消える」と言う細胞の防御本能が、

返って「修復された筈なのに、されていない場合」のグレーゾーンを作り出している部分を表現した。

 
 

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細胞の損傷レベルとリスクに「直線的な関係は通用しない」と言うことは、放射線についても同じく比例しないと言うことになる。
スターングラス博士がフリーラジカルについて、「一瞬の大きなインパクトでは化学的に相殺し合うが、継続的に少ない量を与えた方が影響がある」と語っていたのも頷ける。
遺伝子の不安定さには一定の幅があるものの、外部からの影響が貢献することによって、負荷が加算されていく仕組みだと考えられている。

一生のうちには10の17乗 (1億x10億) 回の細胞分裂があり、自然発生する複製エラーの1000万〜10億分の1の確率でエラーが残るとされています。
これだけの修復の成功率でも、遺伝子につき10億回もの変異がある計算になります。それを修復しながら生命を維持する人体は驚異的です。

ただ、外部から来る遺伝子の破損が自然発生するエラーとは質が違う場合、複製する作業の内容や成功率も異なると考えられる。
膨大な数がある遺伝子も、どのプログラムにエラーが出るかによって大きく変わってくるのです。

 

[免疫とデータ]

害をもたらす因子に人間の免疫が負荷をどのように処理するか、時系列で考えてみよう。

人間は成人した後、老化をしながら、免疫能力の低下と向き合って行くのは、とても自然なことだ。
しかし、必要以上に体の劣化を早める因子にきちんと対処しなければ、健康も著しく損なわれて行くだろうし、逆に抑えれば長く元気に生きることも可能だ。


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図のように、最新の科学を取り入れ、個人差や感度を考慮し、長期間に渡って観察し、最終的に正当な統計と疫学データを取ることによってまともな評価ができるのである。
評価が正しくなければ、対処法も良い加減になってしまって当然であるので、安易に「安全」も「危険」も断定す
べきではないのだ。


 

がんは8〜9割が食を含めた環境的要因から来るとも言われています。
遺伝子の変異から悪性腫瘍になるまでは、数年から二十年以上かかる場合もある。
何重もの免疫による防御をかいぐぐらなければ、がんには至らないと言うことになるが、放射線の場合は心臓病などがん以外の病気にも注意すべきです。

 
原因が何であろうと、主要な臓器が正常に働かないのは、悪い条件が蓄積した結果です。臓器がシャットダウンして命に別状があるのは以ての外。
がんが治る場合もありますが、自然治癒力なくして効果的な医療などありません。病気にかかる前に予防する方がよほど経済的にも賢い選択だと言えるでしょう。 健康の意味は十人十色ですが、「何才まで生きれるか」と言う漠然と寿命を考えるより、「何才まで健康に生きるか」と言う「健康寿命」を能動的に選択し、自分と家族のためにも行動すべきです。

ウイルスによる発ガンの機構を解明し、先日亡くなったレナート・ドゥルベッコ氏 (1914-2012) は、こう言い残しています。
「がんの原因や予防、治療について私たちが一生かけて調べても、社会は発がん性の物質をどんどん作って、環境に広め続けているのです」

前回のルポで「日本人に何が起きているのか」にもがんの統計を載せましたが、なんとも説得力のある言葉です。

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