「僕と核」 |
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10. 日本人に何が起きているのか?
スターングラス博士の言っていることが本当だとして、そして日本にある原子炉がほぼ米国製であるとしても、「それはアメリカの原子力産業の実体であって、日本の生活にどれだけ関係があるのか」と考える人もいると思います。また、「放射線のことは良く分かったけど、みんな元気に暮らしているんだから良いじゃないか」と思うかもしれません。果たしてそうでしょうか。それには、「原子力が産まれてから、これまで日本でどんなインパクトがあったのか」という、日本人の現状に目を向ける必要があるでしょう。最終的には、それがいちばん分かり易いのです。 厚生労働省が発行する「人口動態統計」の中から興味深いと思ったデータをいくつか紹介したいと思います。(データは著作権法第三十二条二項に基づいて転載していますが、厚生労働省の刊行物とホームページでも調べることができます) |
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統計学に関して素人なりに言いたいことは、統計をまとめることによって隠れてしまう側面は、沢山あると思います。すべてを数値化したり平均をとったところで、それぞれのケースに何があったかなど、その経過を無視してしまって、結果論だけで終わってしまいます。 しかしながら、正確な統計をとってそれを適切に分析することによってのみ、浮き彫りになってくる事実もあります。統計学では、全体の流行というのは、天文学的な確率以外には否定できない数値に表れてくるのです。統計を見ることによって、年代ごとの比較を行ったり、「私たちはこれまでどのような道を歩んで来て、これからどこに行くのか」を視覚的に確認すれば、生活レベルのミクロな物事も、マクロな流れで客観的に捉えることもできるでしょう。 |
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スターングラス博士をはじめ、アメリカで低レベル放射線の影響を訴えて来た科学者たちも、統計こそが動かせざる証拠であり、彼らの決定的な武器だったのです。
これは原子力の安全性を訴える側も、同じように考えて広報活動をしているのです。 それでは、被ばくが引き起こすとされる「がん」は、どれくらい起きているのかを検証してみたいと思います。 |
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「悪性新生物=あくせいしんせいぶつ」と言うのが、がんです。なぜ、「悪性新生物」と言われるのでしょうか?これはNeoplasm=ネオプラズムの直訳で、「生物」というよりも、「成長する腫瘍」を意味します。
戦前と戦後では、医療が発達して抗生物質やその他の治療法ができたため、バクテリア(細菌)の感染による死因が驚異的に消えたことがポイントです。その代わり、がん、心臓病、脳疾患が一気に増加しています。その中でもがんが、群を抜いてトップを走っているばかりか、今でも急上昇中です。今日の日本人は、二人に一人は生涯にがんにかかると言います。 日本では、がんは「正常な遺伝子が、活性酸素やタバコなどの発がん性物質により傷つけられ、突然変異を起こしてがん遺伝子になる」と言われています。いわゆる「生活習慣病」のカテゴリです。これが何を示唆しているかというと、「がんにかかる人が悪い」ということです。統計を見れば決定的なのですが、色々調べて行く上で、自分はそう思わなくなった。 がんは、「生活習慣」が引き起こすような生易しいもんではない。 肥満などが引き起こす心臓病や脳疾患などと比べれば、がんとは何年もの潜伏期間を要する、遺伝子の突然変異の積み重ねによるものです。先に書いたように、同じ細胞で複数の変異が起きて、はじめてがん細胞になるのです。人体はがん細胞を常に抱えているようなものですが、がん細胞の抑制遺伝子も破壊されて、ようやく悪性腫瘍にまで発展します。 遺伝子の変異は自然にも起きることで、それが生命体の進化の助けになっていることは分かっています。しかし、戦前にあったがんのレベルが、自然放射能やウィルスなどのせいと考えれば、この50年で上昇を続けているがんの余剰な死亡率は、人の手による環境の変化によることは明らかです。 いくら「突然変異」の原因が食生活だと仮定しても、食事に遺伝子を変異させるほどの強力な因子が含まれているはずです。それは、一体なんだろう。従来の説では、食べものに含まれている多くの化学物質が人体の免疫力の過労を起こしていると言います。その上、タバコの煙は、数千種類の化学薬品で肺のフィルタをわざわざ詰まらせるもんだから、がんの発症率が上がるのも当たり前なのです。(ついでですが、タバコには栽培過程で微量ながら放射性のポロニウム210が入っていると言います) がんにもいろいろな種類があり、環境、食生活、遺伝による因子が重なっており、決して電離放射線とウィルスの挟み撃ちのせいだけにすることはできません。ヘビースモーカーでも肺がんにかからない人もいれば、遺伝的な不幸で産まれながら白血病になる子供もいる。それでも、環境的な要因はいずれ人口に平均的に表れてくる。例えば、女性の喫煙率は全体的に下がっている(若い層では上がっているとされている)のに、女性の肺がんの死亡率は上昇を続けている。これは、空気がそれだけ汚れている証拠だろう。若い女性の間で増加している乳がんに加えて、深く注意したい点です。以下の図は、男女の部位別のがんによる死亡率を示したものです。 |
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がんの原因は無数にあるが、環境的な要因が最も大きく、強い免疫力があれば、遺伝子の異変が起きてもがんを未然に防ぐことができる、と考えることは大事だと思います。それが、健康な体で毎日のように起きていることなのです。 補足として、博士のインタビューにもあった(すい臓の機能低下が引き起こす)糖尿病について。日本でも10人に1人と急増している糖尿病は、「世界ではこの20年で3000万人から2億3000万人に増えた」と言います(Medical News Today)。日本人は欧米人と比べてすい臓も弱く、元からインスリンの分泌量も少ないそうです。これも食生活を注意すれば改善できることは間違いありませんが、がんと同じく、自然環境の変化がもらたらした病であることは、ほぼ間違いないでしょう。 いずれ、きちんとした独立機関が日本中で医学的なデータを集めて、統計をまとめる必要があるでしょう。今まで諸外国でもそうであったように、これが世論を大きく左右することになるのではないでしょうか。 |
<日本人の寿命> これだけ主要な器官の重病が急増していながら、日本人の平均寿命はこの50年でずっと伸びて来ている。少子化&高齢化は深刻な社会問題になってきていますが、日本は世界有数の長寿国としても知られています。表を見て見ましょう。 |
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平均寿命というのは、誤解を招く部分もあります。昔は幼くして亡くなるケースが今よりずっと多かったので、平均値を下げてしまいますが、50年前でも成人すれば60才まで生きることは珍しくなかったし、80才を超える人もいました。それにしても、今の日本人は長く生きている分、健康な人生を送っていると言えるのでしょうか。 「80才くらいまで生きれたら、がんになって死んでも良い」と思ってしまえば、元も子もありません。いくらそれが当たり前の世界になっていても、正しい情報さえあれば、あきらめる必要はないのです。 最近は遺伝子の研究が進むにつれて、特定のがんに効く薬などが開発されています。しかし、重病を患って病院の世話になる前に、体の免疫力と治癒力を尊重して病気を防ぐ方が、健康的にも経済的にも、ずっと賢い選択だと言えるでしょう。統計を見れば分かる通り、今後は医療費も負担もあがる一方ですから、すべての人に公平に与えられるサービスではないかもしれません。それが歪んだサイクルであり、そのシステムに入れなかった人々はどうすれば良いのでしょう。 他にも、興味深い統計は沢山あります。例えば、50年前は自宅で息を引き取る人が85%だった。それが現在では85%が病院で亡くなっている。出産にも同じ傾向が見られる。私たちは、どうやって産まれて、どうやって死んで行くかも劇的に変わってしまった時代に生きているのだ。時代の流れとして当然のことですが、習慣となってしまったことを人が疑わなくなるのは、不思議なことです。 余談ですが、日本人は伝統的に健康な食生活と合わせて、お風呂に肩まで入る風習があるから、より長生きするのだと思う。一日の環境からの刺激による疲れをとったり、血行や新陳代謝を促進させることは本当に大切な行為なのだと思います。 <日本の赤ちゃん> それでは、赤ちゃんの方を見てみましょう。なぜ、胎児や乳児の健康を気にかけることが大事なのでしょうか。それは前章でも触れたように、遺伝子が世代交代する際には、妊娠中の親の健康状態を通して、自然環境が赤ちゃんの健康を形成するからです。いくら成人が環境の変化に対応できていても、最も敏感な胎児にはどんな微量な負荷でも届くことになります。 欧米では、核実験や原子力施設の事故がある度に、必ず「乳児死亡率」という統計に反映されてきました。その点、日本は戦後から乳児の死亡率がずっと下がり続けています。これは、日本の医療技術のめざましい進歩と衛生基準のたまものであると思われます。(60年代の核実験のピークには下降が緩やかになった)日本では原子力発電所がこれだけ稼働し続けているにも関わらず、現在はほとんどゼロです。 それでは、ここ数十年は健康な赤ちゃんが産まれて来ているのか?ということは、少しばかり、別の話であると思います。 放射線の影響の一つと指摘されている、未熟児の数を見てみましょう。未熟児とは、1kg未満の赤ちゃんのことを言う。平均体重は、男女ともにおよそ3kgです。50年前と比べると、全体の出生数は実に半分となっていますが、出生率と比べると、実に60倍もの未熟児が産まれて来ています。赤ちゃんの平均体重こそ劇的には落ちていないものの、明らかにヘビー級の体重が消えて、そのまま未熟児クラスに変わってしまったのです。
このようなことも、がんのデータと同じく、放射線とだけ結びつけて話を進めようとは思っていません。ただ、私たちの社会が向かっている方向を明確に示しているものだと思うから、知るに値するものだと感じて紹介しています。これから親になる人たちは、赤ちゃんの健康を大切に守ってあげてください。 * * * ここまで読んで、「できる範囲で健康を守るためには一体何ができるんだ?」と思う人もいるでしょう。原因を消すことができなくても、結果を予防することはできるでしょうか。どこから始めて良いのか分からない場合は、まず原因をきちんと認識することによって、初めて対応が見えてくると思います。 どんな人間も、健康に産まれ、健康な生活を送って、(変な言い方ですが)健康に死んで行く権利があると思う。このレポートの主旨も、一行に要約するとしたら、それだけです。 日々の健康について、考える余地は誰にでもあると思います。それは、ただ長生きするための健康ではありません。人間がまともな生活を送るため、の健康です。 リアルな話、自分の好きなことをして、自分の選択で体を壊すことは、避けられない。 人が年をとって、老化して、死んで行くことは極めて自然なことですし、後がつかえているのだから、皆が長生きしすぎたら社会がパンクしてしまいます。自然に起きることは、選べることではない。しかし、人がやっていることは選べる。 例えば自然放射線が老化を促進しているとして、それが良いとか悪いとか言える筋はないだろう。人工放射線によって健康を損なっているのは、人口の数%かもしれないし、数割かもしれない。でもそれが乳児や老人に拡大されることとすれば、いずれは全員に言えることです。社会がひとつの生命体と考えたら、体のいちばん弱い部分が壊れ始めたときに、行動力のある白血球がそれに対応しなかったら、いずれは全体が冒されてしまうのは時間の問題です。歴史というものは、新しい命の循環なのだから、いちばん繊細なリンクを守らなければいけないのです。 人体は45億年かけて地球が育んだ最も繊細な生き物ですから、自然から離れるほど健康が崩れてしまうのは当然です。知らず知らずに起きている環境破壊は、きっと健康が崩れて行くのと、平行した道を辿って行るだろう。それでも、大気汚染、水道水の質、食べ物の質など、神経質になってもきりがないし、病気の心配ばかりする必要はないと思います。なぜなら、人間の体は気にしているよりもずっと精巧につくられていますし、見てないところで一生懸命働いてくれています。自然な生活を心がけることこそが、一番の健康法なのです。現実的には、ビタミンや抗酸化物質をとるなど、免疫力アップのためにできることもいろいろありますから、時間をかけて勉強する価値のあるトピックだと思っています。そして、人間の健康は、精神状態と密に繋がっていますから、心をタフにすることも、体を丈夫に保つことに大きく貢献しているのではないかと思います。 |