「僕と核」2012

    第二部:被ばくの仕組み

 

<からだの取り込み>

物を口に入れると言うことは、体から出て行くまで、循環させると言う意味でもあります。
人体は食べものを消化し、栄養を吸収し、無駄なものはフィルタされ、排泄します。

 [pdf version]

[すべては、循環]

上の図を見れば、体に取り込んだ物質の水溶性がなぜ大事なのかが分かると思います。
経口摂取したものは主に腸で吸収され、水に溶けないものは排泄されます。
逆に溶けるものは血流に入り込み、全身の細胞に行き渡ります。
肺、肝臓、腎臓など悪いものをフィルタしてくれる臓器は非常に重要です。

体内に入った物質の分析サンプルを取る方法は、数通りあります。
放射性物質に関しては、ホールボディカウンターやガイガーカウンターに頼らなくても、血液や尿のサンプルを計ることもできます。

その証拠に、1964年には日本人の血液中から核実験のセシウムを計ると言う実験が行われています。
(成人男子の体重1キロ当たり 6~12Bq/kgと言う結果が出ている)

  [生物学的半減期]

放射性物質の半減期に加えて、体が排泄するまでにどれくらい時間がかかるか、と言うのが生物学的半減期です。
経路や部位により、大抵は物質の半減期より短いのですが、ストロンチウムのように骨に入ると長期間かかるものや、肺に入るとなかなか抜けないものもあります。
どの経路で入るかは、体にとっては重要なポイントなのです。


 
[pdf version]

これだけ特性を調べれば、違う物質、医療用のX線や飛行機の宇宙線と比べることは外部被ばくには適用できても、内部被ばくの多様性をを無視していることになります。

 

[被曝&電離]

放射線は必ずと言って良いほど "ionizing radiaton"(電離放射線)と、一般の電磁波から区別して呼ばれるように、
「電離=でんり」と言う現象が放射線の影響の一つであることが分かります。

電離とは、原子や分子から電子がはじき飛ばされることで、電子はマイナスの力を帯びているので、
その原子(あるいは分子)がイオン(プラスとマイナスのバランスが取れてない状態)になってしまう。

力を帯びたイオンは他の分子と反応を起こすので、化学的に強いイオンほど、細胞にとって脅威となる。
よって、α線、β線、γ線のエネルギーが直接的に細胞や遺伝子を破損してしまうと同時に、電離は間接的に細胞のバランスを乱す。(次項で詳しく説明)

まずはエネルギーの比較をしてみよう。

 

[pdf version]
*音波は電磁波ではありません

人間の細胞の通常のエネルギーが1〜10電子ボルト (eV) なのだから、電離放射線がいかに強いエネルギーであるかが分かる。
共有結合 (Covalent bond = 原子が互いの電子を共有する化学結合) による結びつきを壊したり、電子をはぎ取ることなど、いとも簡単だ。

外部被曝、内部被曝とも、エネルギーが発射された方向に均等に分布されるのではなく、衝突した場所に分散されて行く。
そのエネルギーが周りの細胞や粘膜に吸収されて、影響を及ぼすのである。

当然のことながら、人間の細胞には破壊を修復する免疫が備わっており、修復できないダメージがあれば細胞が破棄される仕組みになっている。
細胞も遺伝子も多重構造の防御能力が備わっているのだ。

 


[α線とβ線の効果]

下の図は、1972年の米国物理学協会 (American Institute of Physics) の本に載った表で、敢えて古いデータを出しています。
アメリカでは原子力爆弾を開発した当時から、人体における放射線の影響を研究し尽くしていました。
放射性物質の電離効果は、直接的、二次的作用と、影響は必ずあります。

図では1センチ毎に起きる電離(イオン分子のペア)の数、 α線とβ線がそれぞれ空中と人体組織の飛距離を示しています。

 


NNDCのサイトを参照すれば、セシウム137 (Cs137と入力) とストロンチウム90 (Sr90) のβ線は0.2MeVくらいで、
空中では数十センチ、体内では一ミリの飛距離があり、1トラック (放射線) に付き8〜20組の電離を起こすことが分かります。
ストロンチウムの場合は骨に沈着した場合、この飛距離でも骨髄に届けば被害が起きることになります。

ウランの核分裂生成物にα線を出すものはありませんが、ウラン、ラドン、プルトニウムはアルファ線を出します。
図から見ても分かる通り、α線は飛距離が殆どありませんが、電離の数が桁違いに多いので、
その分影響も大きくなります。(ウラン238のα線は3MeVほどで、80組の電離を起こす)

 

放射線は、細胞の活動レベルより何万倍も強く、エネルギーが吸収されることによって様々な反応が産まれる。
電離とは電子が飛ばされて不安定になることで、破壊の目安ともなる。
 
次へ