「僕と核」
    (2006)

4. 放射性物質ってなに?


身の回りにあるふつうの物質は、原子核がチルしているため、放射能をもっていません(=放射線は出しません)。自然界では、鉛より重い元素はすべて放射能を持っていて、そこにあるだけで、放射線を出し続けます。なぜかと言うと、彼らは不安定な状態にあり、その不満を発散させて落ち着きたいからです。つまり、高いエネルギーを持った核が、着替え中の状態にあるのです。

放射性の同位体は、安定した状態になる(=放射能が消える)までは、素粒子を捨てたり奪ったりして、放射線を出し続けながら、ほかの物質に変化します。この自然のプロセスを「崩壊=ほうかい」と呼びます。つまり、放射性物質というのは、原子が崩壊しながら放射線を出す物質である、と言えます。崩壊と言っても、ミクロの世界では自爆のようなもので、その瞬間に激しいエネルギーをもった粒子を放出するのです。

放射能の寿命は、「半減期=はんげんき」という言葉で表現されていて、その物質が崩壊によって半分に減るまでの時間を表していますが、たった数秒のものから、何年、何千年、何億年のものもあります。あくまでも半減する時期ですから、その物質が完全に消える(ほかの物質になる)までには、何百倍もの期間がかかります。

<ウランの崩壊と核分裂の違い>

ウランは45億年の半減期を持っていて、最後には鉛になって落ち着きますが、その途中経過にある、ウランの「崩壊生成物」の放射性ラジウムとラドンなどが自然界で探知されます。また、地中には10億年以上前に産まれた放射性カリウムが微かに(自然のカリウムの0.012%)残っています。

ウランの核分裂は、崩壊に比べると何百倍もの強いエネルギーを放出しながら、「これまで地球に存在しなかった同位体」を沢山つくります。なぜなら、核分裂は自然に起きることは、ほぼありえないからです。


同じウランでも、核の「崩壊」と「分裂」では、生成物はまったく違います。
これはとっても重要な点で、繰り返すに値します。

さん、はい
同じウランでも、核の「崩壊」と「分裂」では、生成物はまったく違います。
よくできました。

「崩壊は自然に起きるので制御できないが、生成物が決まっている」のに対して、
「核分裂は人の手によって制御できるが、生成物が広範囲」であることも対照的です。

それでは、原子力発電や原子爆弾の燃料に使われるウラン235の核分裂と、
天然のウラン238の崩壊による生成物を、周期表で見比べてみてみましょう。


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オレンジの元素が、ウランの崩壊の順路です。
黄色い元素が、核分裂によって放射性同位体が発生する元素です。

これでウランの崩壊に比べて、核分裂の「散りっぷり」が分かると思います(それがポイント)。
ウランは常に二つに分裂するのですが、割れ方がランダムなために、いろいろな同位体を含めると百種類以上もの破片が産まれます。

生成物はすべてが放射性で、半減期や化学的性質もすべて違います。放射線だけを見れば、人工と自然の放射性物質を分けて考える根拠はありませんが、それらが環境の中でどのように動き回るかというのは、それぞれの元素の特徴によって大きく異なるのです。例として、放射線の測定に使われている代表的な「放射性同位体」の半減期と崩壊による放射線の種類を見てみましょう。

ウラン238 (45億年、アルファ線)
ウラン235 (7億年、アルファ線)
 ---> セシウム137 (30年、ベータ線)
 ---> ストロンチウム90 (28年、ベータ線)
 ---> イットリウム90 (64時間、ベータ線)
 ---> ヨウ素131 (8日、ベータ線)
 (希ガス)
 ---> キセノン133 (5日、ベータ線)
 ---> クリプトン85 (10年、ベータ線)
 ---> アルゴン39 (270年)
プルトニウム239 (2万4千年、アルファ線)

それでは、ウランの核分裂を扱っている原子力発電所について、探ってみましょう。

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