「僕と核」2012

    第一部:アトムを追え

 

< ウラン発、セシウム行き >

2011年ほど、セシウムと言う言葉を聞いたことはなかったでしょう。それでも一体それがどんな物質なのか、何を意味するのか、なかなか学ぶ機会がありません。
そのためには、まずセシウムがウランから産まれていること、そして人間とどのような関わりがあるのかを知る必要があります。

 
 
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[周期用 (しゅうきひょう)]

化学物質を語る上で、周期表は欠かせません。この表は、化学的な特性などでまとめられていて、地図のようなものです。

原子/元素は、全て同じ物質(陽子、中性子、電子)で構成されていても、その組み合わせの数によってさまざまな特性が産まれます。
宇宙が何十億年と進化して行く時間の中で「役割」や「意味」が産まれてきたのです。

まず、人間の体を構成する複雑な有機化合物(アミノ酸、タンパク質、遺伝子など)以外の「必須元素」の中には、筋肉の動きや神経伝達の際に使われる、ナトリウムやマグネシウムの電解質や、甲状腺のホルモンの原材料であるヨウ素など、微量であっても無駄なものは存在しません。同時に過剰に摂取すると病気になってしまうものもあり、体は実に繊細なバランスの上で成り立っているのです。

 

[核分裂生成物 (かくぶんれつ・せいせいぶつ)]

ウランの核分裂生成物は、放射性物質です。それぞれ、エネルギーを放出しながら、安定するまで他の元素に変わって行きます。
図から分かる通り、唯一体の必須元素なのがヨウ素なので、放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれると問題になります。

 
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前回の「僕と核」で強調したように、ウラン235の核分裂から産まれる生成物は、自然界では存在しない同位体ばかりです。
この二つの周期表を見比べるだけでも、人間の「活動範囲」よりウランとその核分裂生成物がずっと重いことが分かるでしょう。

各元素には特徴があり、周期表の位置によって化学的特性も違うため、環境や体内では同じようには反応しません。
では、もっとも注目されているセシウムを例にとってみましょう。

 


[アルカリ金属]

セシウムが属する周期表の縦の列は、アルカリ金属と呼ばれます。周期表は、化学反応の基礎となる電子の配列で整理されています。
アルカリ金属は、重くなるほど、水と化学反応を起こし易くなっています。
下記の図は、電子配列を図にしています。

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ついでに、希ガスの構造は価電子が埋まっているので化学的反応を起こしません。(だからフィルタがしにくい)
セシウムが一番取り上げられる理由には、化学的根拠があります。(もんじゅで火災事故を起こしたナトリウムも、水や空気と反応し易いため)
自然環境に0.01%の割合で存在するカリウム40が自然放射能の値として比較されることがありますが、その半減期は12.5億年ですから、30年のセシウムとは性質が異なります。

 


[U235崩壊物と半減期]

ウランの核分裂生成物はセシウムやヨウ素だけではなく、二百種近くの化合物が産まれ、それぞれがベータ線とガンマ線を出す「ベータ崩壊」を数回しながら安定して行きます。
その中で「化学的性質」と「半減期」が生物にとって脅威になるかどうか、カギになります。

 

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ウランやプルトニウムの核分裂は二つに割れて図のような山が出来上がります。この中で水溶性の高いものは体に吸収され易く、そうでないものは比較的早く体から抜けて行きます。
また、原子力発電所の通常運転で放出されているクリプトンやキセノンの希ガスも、時間が経つと問題のあるストロンチウムやセシウムに変わることが分かります。
これらの金属は、放射線を出さなくても毒性があります(後で説明)。

また、核分裂のエネルギーが燃料以外の物質も放射性に変えてしまいます。
よって、使用済の燃料の周りにはウランから来るアクチノイドだけではなく、そしてヘリウム、炭素、コバルトなど「活性化」された放射性物質とのその化合物も沢山産まれます。

右側の半減期の図で分かることは、核燃料が大気に放出された場合、一年目までは時間によって状況が刻々と変わって行くと言うことです。
セシウムは体に吸収され易く、ストロンチウムはカルシウムと同じグループのために骨に溜まり易い、半減期の長さなど、複合的な理由で重視されるようになります。

 

[半減期を詳しく]

半減期が「物質が半分に減るまでの期間」と言う定義は認知されていても、半減期が人体にとって「何を意味するのか」が曖昧になっている場合が多い。

 
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上の図のように、短い半減期は環境においては早く消えるから心配する時期も短くて良いものの、体内で早い崩壊が起きると最もダメージを与えます。
この事から、放射性ヨウ素は 1)体に取り込まれる 2)半減期が短い=8日 という条件を満たしている。

それでは、長い半減期はどうでしょう。内部被曝においては、短い半減期に比べるとゆっくりと崩壊するので激しくないと言うことになるが、 それは一度きりの被曝を比べた場合である。
環境に長く残ってしまう場合は、汚染された地域にいることで直接吸引することや、生物濃縮や食物から体内に入って来る可能性が増える。
それが慢性的な被曝につながり、ベータ線やガンマ線の直接的、間接的被害を受けることになる。

 

放射性物質は、化学的性質と半減期によって、被ばくを起こす可能性や、仕組み、影響も大きく変わってくる。

  第一部を通して見れば、ウラン資源を採掘、精製、そして使用することでいかに汚染が産まれてきたのか、
核分裂生成物はゴミであること、そして全ての工程が密接に繋がっていることが分かると思います。

第二次世界大戦や冷戦を経て、時代背景こそ劇的に変わったものの、扱っている物質は全く一緒です。
原子力+発電=原子力発電です。発電に何の非がなくても、原子力にまつわる問題は当初から変わっておらず、それを克服する技術を模索している最中なのです。
国家予算を見れば一目瞭然ですが、研究は商業化し易いものでないと続けるのが難しく、アメリカの場合はそれが軍需であると言う分かり易い話です。

原子力爆弾、核実験、劣化ウラン弾、再処理、原子力発電、、、これまで話題になって来た数々の被曝の関連性を探ることによって、「核燃料サイクル」の(非)現実性、行き着く先が物理的、経済的に実現可能なのか、良いことばかりでなく悪いことも含めて議論すべき時なのです。


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