脱皮

それは蛹が蝶になるやうに
アヒルが白鳥になるやうに
再起の不可能は孵化を続ける不死鳥には無く
不知火で燃えた古い肌を脱いで
九死に一生を得た幸い
窮地に追い込まれた災いと絶望の苦しみは
我が灰が甦る為の 生まれ変わる為の陣痛に過ぎない
体内の暖かい時間との戦い
難産は人間の知識欲の証
簡単な暗算では答えが違うから
天に願いましては人との一縁成
主に染まった困った時の神頼み
残された道は阿弥陀のみ 血と汗と涙飲み
喉の仏を潤す 五月雨でズブ濡れた肌は乱れて
濡れ衣を脱ぎ捨て 人肌の衣を取ったら心も裸になる
それは無防備で無く 無謀な美でも無く
血と肉と骨を包む脆い鎧が魚の眼の鱗の様に体中から落ちる
一枚づつ散る 思い思いに記憶となり
死と隣り合わせの肉体は
蛻の抜け殻 魂の宿借りの甲羅
ボウフラの一生を棒に振らない為に出す
防腐剤の無いオーラ

それは卵が雛に孵るやうに
日向で蕾が花開くやうに
太陽の真下で才能が開化した一皮剥けた未完の大器
未熟な果実はその種を残さんと考える以前に
必死でその実を自然に成長させる
汗る皮膚の毛穴を抜け穴に異次元に脱出
解放された細胞の集合体
包帯で巻かれた皮を保存する
ミイラ捕りがミイラになる
干乾びた日から見た夢は角膜に焼き付いたまま
鼓膜に木霊したまま
命の火が灯る日を寝て待つ 静かに
冬眠から目が覚める 芽が生える春の訪れと共に
心臓の音がずれる程
夏の空に浮かぶ逸れ雲よりも高く
又は秋の夜に天照らす満月のやうに
海の満ち引きが産まれ立ての亀を導き
時の引き潮生きとし生けるもの
生命の源皆元の場所に帰る
生命の源皆元の場所に帰る
道を忘れていた事を思い出した未来の記憶
今聞こえる脱皮の伴奏曲