CS十年記 +@ |
データ更新: 10.24.2017 |
(記事は2016) 日本プロ野球(NPB)は143試合のレギュラーシーズンを終え、CSが始まっている。(2015年から両リーグ143試合、2007年~2014年は144試合)CSとは、パ・リーグが2004年より導入したプレーオフ制を経て、プロ野球が2007年から両リーグで始めたポストシーズン方式の名称である。総当たりと交流戦を含む年間を通じてリーグ優勝は決まるものの、日本シリーズ進出をかけてリーグ順位に基づいてCSが行われる。それぞれのリーグ3位と2位が争う第1ステージは3戦2勝制で、第1ステージの勝者とリーグ優勝チームが戦う第2ステージは5戦3勝制だったが、2008年以降、リーグ優勝チームには「1勝アドバンテージ」が与えられ、3勝で進出できるのに対して下位チームは4勝しなければならない(6戦4勝制)。このアドバンテージのため、リーグ優勝チームはホームで1勝すれば2勝目と数える風になっている。すでに十年経ったとは言え、国民のほとんどはCSの細かいルールまで覚えていないのが現状ではないだろうか? 自分が子供の頃はリーグ優勝→日本シリーズと言う簡単な図式だったし、どの年も卒業アルバムには載るくらい思い出深いシーズンだったのが、CSが始まったことでリーグ優勝の価値やインパクトが下がったどころか、リーグ優勝を昔ほど素直に喜べなくなったのは事実だ。しかしファン心理以上に最も重要なのは、果たして現行のCS制度が「公平=フェア」であるかどうかではないだろうか?リーグ優勝チームにCSを戦わせるのはフェアだろうか、またそれを保証するために与えているアドバンテージは妥当なのか?シーズン終盤まで最下位争いしていたかもしれないチームが、3位に食い込んで日本一への挑戦権を掴むことはフェアだろうか?これらは起きる可能性の高さではなく、その可能性があること自体フェアであるかどうかの問題である。本文では、過去十年のデータを俯瞰した視点からアプローチしてみようと思う。
NPB DATA (2004~2017) &/ MLB DATA (2006~2017) (更新中) まずは上記のリンクでこれまでの統計を参照しながら、考えてもらいたい。 MLBは年間162試合を行い、1994年以降は8チームによるプレーオフ方式が安定している。シーズンを終えた時点で、各ディビジョン(地区)を制したチームがプレーオフ進出を決める。アメリカン・リーグ(ア・リーグ)、ナショナル・リーグ(ナ・リーグ)にはそれぞれ3地区(東/中/西) あり、6地区にそれぞれ5チームの計30チームが在籍しており、まず地区優勝した6チームがプレーオフに進出する。 そして、残った24チームから各リーグの勝率上位2チームがワイルドカードとして1試合プレーオフを戦う。その勝者が地区シリーズ(ALDS / NLDS = 5戦3勝制)に進みトップシード(最高勝率)のチームと戦い、第2シードと第3シードも地区シリーズを行う。その勝者がリーグチャンピオンシリーズ(ALCS / NLCS = 7戦4勝制)に進み、そしてワールドシリーズ(WS = 7戦4勝制)でチャンピオンを決めるのである。(ちなみに、ワイルドカードが勝率上位2チームになったのは2012年以降で、それまでは勝率がタイでない限り、勝率1位がワイルドカードとして決まっていた。)
CSでは、引き分け試合は上位チームに1勝を与えるため(過去に二度あり)「1.5勝アドバンテージ」と呼ぶ人もいるが、そもそも最も許せないのはリーグ優勝チームに与える1勝アドバンテージかもしれない。まず、プロスポーツ界を見渡しても、シーズンを賭けた戦いにおいて両チームが同じ試合数を勝たなくても良いなどと言うシリーズは存在しないし、同じフィールド、同じルールで戦っているチームとそのファンに対して失礼ではないだろうか。どう考えてもスポーツマンシップ=正々堂々と公平なルールのもと戦い、相手をリスペクトする精神に反する。逆にこのアドバンテージがなければ公正さを保てないのであれば、一体何のためのCSなのか。この措置は、本拠地開催によるアドバンテージ=有利に加えて、下位チームに与えるディスアドバンテージ=不利の意味合いの方が強く感じる(敵地で4勝2敗以上出来るなら納得出来る、との見方)。シーズン終了時のゲーム差を考慮するとか、勝率が五割に達しているかどうかとか、それ以前の問題だ。場合によってはリーグ優勝チームに更なるアドバンテージを与えても良いのでは、との意見も見かけるが [註:2017年のDeNAの日本シリーズ進出決定後に『2位に10ゲーム以上差をつけて優勝した場合、最終Sでさらに1勝のアドバンテージを加える』案が再浮上しているらしいが、余計有り得ない話。]、下位チームをより不利な状況に置き「そこまでされても勝ち上がったチーム」は賞賛にこそ値するものの、逆に負けた方はたまったもんじゃないし、どのような条件であれば下克上チームに日本一になる挑戦権を与えて良いものだろうか、深く考え直す必要がある。
CSの是非から一旦逸れるが、年間順位を決める上で、実は見過ごせない問題がある。日本プロ野球では、延長12回で勝敗がつかない場合は引き分けとして記録する。ただ、リーグ順位を決めるのは勝率のみであり「勝利数を引き分けを含まない試合数で割る」ことによって計算される。つまり、引き分け試合は順位を決めることにおいて無効試合と同然の扱いとなる。よって、極端な例だが「1勝0敗142分」のチームは勝率1.000のまま、「142勝1敗0分」で勝率0.993のチームを順位で上回ってしまうことになる。その理由は、かつて引き分け試合の後に必ず再試合で勝敗を決めていたメジャーリーグ方式を使っているため(現在はMLBは原則的に引き分け試合はないので、再試合もない)である。このことも、不公平が起きる可能性があること自体がフェアであるか、の問題である。 本来は引き分け試合が無いのが計算も分かり易くて望ましいのだが、延長試合はチームへの配慮だけでなく、日本では終電がある観客を考慮した場合、引き分け自体はしょうがないかもしれない。だが、順位を決める上では勝数を優先させるべきだ。勝率は、メジャーのように引き分けの無い状況や、試合数の異なるシーズンで成績を比べる際などには便利だが、順位を決める際は勝数で並んだ時のみ、現行の勝率計算を参照するなどの対策を講じなければ、到底フェアとは言えない。(サッカーでは引き分けを勝ち点1とし、勝利=勝ち点3の1/3扱いだが、それは頻度の多い引き分けに価値を与えるからこそ。) ちなみに過去十年の記録で言えば、CS圏内では2010年のセ・リーグとパ・リーグ、2011年のセリーグ、2014年のパ・リーグの四度、勝利数で上回ったチームが勝率で下回った例がある。CSのように上位チームに圧倒的有利を与えるのであれば、順位の計算方式も公正にすべきであろう。
CSを撤廃せずに、プレーオフ制度を続ける前提で考えた場合、今ある課題を解消しつつも、どのような形が一番望ましいのだろうか。 まず、どの位の勝率がプレーオフにふさわしいか、と言う議論をMLBと比較して考えてみよう。過去10年 (2007~2016) のMLBでプレーオフ進出を果たしたチームで最も低い勝率は、2008年のLA ドジャーズ [註:チームの読みに関してはこちら:http://e22.com/s/ ]の勝率 .519だが(地区優勝したためワイルドカードではない)、ワイルドカードチームの平均勝率は.562である。3地区あるため、ワイルドカードチームが地区優勝チームのいずれかより成績が良いことは頻繁に起きる。ワールドシリーズ優勝チームの平均勝率は.574。それに比べて、日本のプロ野球はCS出場チームの平均勝率は.531、日本シリーズ優勝チームはちょうど.600だ。
*2006~2015 では、各リーグ優勝チームと2位チームの計4球団のみでプレーオフを行うとしたら、どの形式が一番面白いのか。現在のCS方式では1勝アドバンテージなど偏った条件ばかりで全くフェアではないし、面白くもないので、新しい案を提言したい。 [セ・リーグ優勝チーム VS パ・リーグ2位、パ・リーグ優勝チーム VS セ・リーグ2位] による7戦4勝制(1勝アドバンテージなし)、開催地変更も日本シリーズと同じ方式 [本2/対3/本2] (余談だが、近年NBAの2/2/1/1/1もフェアだと思う)。この「スクランブル・シリーズ」の勝者が、頂上決戦として日本シリーズを行うと言うのはどうだろう。つまり、セ・リーグ同士、またはパ・リーグ同士の日本シリーズも有り得ると言うことだ。歴史と比べたらおかしな話かもしれないが、どちらか一方のリーグがそれぞれのシリーズで勝ち進んだ結果であれば、CSのようにシーズン直後ではなくワンクッション置いて改めて同じリーグで日本一を争うのは新鮮だし、そして仮に2位チームがそれぞれのリーグ優勝をチームを正々堂々破っての日本一であれば、それこそ誰も文句はないのではないか。このフォーマットが実現すればファンもワクワクするのでは、と思う。 [総括] いくらメディアが「CSは別」と割り切ってリーグ優勝を「何年ぶり」などと騒ぎ立てても、ファンの間では虚無感が漂うのは否めない。リーグ優勝したチームは「CS第1Sを勝ち上がって来たチームを受けて立つ」と言う意気込みよりも「143試合頑張って優勝したのに、また下位チームと短期決戦をするのか」と言うプレッシャーの方が大きいのが本音だろう。そこで制したCSは安堵でしかないし、負ければ地獄。失うものは何もない下位チームとは全く違った勢いである。ポストシーズンと言えば、先発ローテ〜ブルペン〜抑えがガッチリ噛み合ったピッチングと、シーズン終盤におけるチームの勢いが全てだし、シーズンで最も打っていたチームが勝つ保証はまずない。その証拠に、これまで下克上を起こしたチームは八割の確率でそのまま日本一に輝いているのだ(↑NPB DATA参照)。 CSは収益が悪化した下位球団の救済であることは皆が理解した上で応援しているところだが、スポーツの世界において勝利の美酒を薄めてまで、ルールを変更すべきではない。日本のプロ野球が球界再編問題など試練を乗り越え、格差を減らすことや、興行的理由で工夫を凝らしたい気持ちは分からないでもないが、ファンがスポーツに求めているのは、筋書きのないドラマや、チームや選手への長年に渡る愛情。ルールは何度変わろうと絶対であるし、そこにドラマが生まれるのは確かだからこそ、ファンもリーグの決定事項を受け入れる反面、大人の事情を飲み込んで少年/少女の気持ちを忘れて欲しくはない。サッカーのJリーグも2ステージ制を2年間試した結果、来季からは通年リーグに戻すと発表したばかりだが、財政的事情はともかく、これ程スポーツ観戦や選手移籍の国際化が進んでいる中、世界標準で強くなって行くチームを応援したいのがファンの切なる願いではないだろうか。 |