日本産婦人科学会への抗議文
4/20/2011 [更新]
日本産婦人科学会 (JSOG) 、日本産婦人科医会 (JAOG) が発表した案内文で、
妊婦に対して「100mSv以下では、被害はない」「50mSv以下なら安全」
とする不適切な基準値を発表していることに対し、ここに抗議する。
JAOG 3/19案内原文:http://www.jaog.or.jp/News/2011/sinsai/fukusima_0319.pdf
JSOG 3/24案内原文:http://www.jsog.or.jp/news/pdf/announce_20110324.pdf
JSOG 4/18案内原文:http://www.jsog.or.jp/news/pdf/announce_20110418.pdf
JSOG 3/24案内文より一部引用: 「お腹の中の赤ちゃん(胎児)に悪影響が出るのは、赤ちゃんの被曝量が 50,000マイクロシーベルト(50ミリシーベルト)以上の場合と考えられています。
なお、日本産科婦人科学会では放射線被曝安全限界については米国産婦人科学会の推奨に基づいて50ミリシーベルトとしてきております。一方、これら問題に関する国際委員会の勧告、ICRP
(International Commission on Radiological Protection) 84 等に基づいて安全限界を100,000マイクロシーベルト(100ミリシーベルト)とする意見もあります。この違いは他の多くの安全性指標と同様、安全域をどこまで見込むかという考え方の違いによるものです。なお、赤ちゃん(胎児)の被曝量は、母体の被曝量に比べて少ないとされています。胎児が100,000〜500,000マイクロシーベルト(100〜500ミリシーベルト)の被曝を受けても胎児の形態異常は増加しないとの研究報告もあり、ICRP84は「100ミリシーベルト未満の胎児被曝量は妊娠継続をあきらめる理由とはならない」と勧告しています。」 |
抗議内容: |
|
一、 | ICRP 84勧告 "Pregnancy
and Medical Radiation"1 =「妊娠と医療放射線」で出している基準値の100mSvは、 |
一、 | アメリカ原子力規制委員会の職場における妊婦 / 胎児への被曝制限の推奨値3は最大で5mSvである。 放射線従事者のの年間許容量を50mSvとし、妊婦はその10分の1である。 他国の原子力機構も、妊婦の被曝量の制限は合計で1〜5mSvとしている。 |
一、 | 大人の人間でもがんの発症率の増加が認められるのは年間100mSvであるとされるのに、放射線従事者の年間被曝線量が非常事態でもない限り年間20mSv程度に制限されているのは何故か。 ICRPが基準値を設定するにあたって、1997年の勧告から続いている「線量制限体系」は指針の三本柱として、 ・Justification(正当化):被曝をしてでも得られる効果が、その被害を上回る場合以外は、避けるべきである。 ・Optimisation(最適化):経済的、社会的な理由も含めて「合理的に達成出来る限り」低く保つべきである。 ・Limitation(制限):個人の被曝量がその環境で指定された推奨値を越えないように努めるべきである。 と挙げている。つまり、案内でICRPのデータを利用するのであれば、同時にこの三本柱を尊重した上で、 妊婦/胎児への制限を50mSvに引き上げている理由を明確に示せなければ、大変な問題である。 |
一、 | この理由から、JSOG 4/18案内で「安全を見込んで50mSv」と言う表現をしているが、これは大きな間違いである。外部被曝の値を粉ミルクや飲料水による内部被曝の累計値と比較していること自体、危険である。妊娠中の時期によって、甲状腺の発達に伴うヨウ素の吸収率など放射線への感度も大きく変わるため、均一の基準値を設定する際に考慮する必要がある。 |
一、 | JSOGの4/18案内で参考文献としている食品安全委員会による「放射性物質に関する緊急とりまとめ」4
(2011年3月発行) も、ICRPの数々のX線照射に基づいた勧告から「逆算」して放射性ヨウ素の許容値の50mSvを割り出しているが、これも誤った考え方による計算である。 |
一、 | かくして、ICRPは職場での妊婦の被曝を数mSvと制限しながら、一方ではX線による胎児の二次被曝を100mSvまで容認すると言う矛盾が見られる。ICRP自身も、外部被曝のデータを元に数式で内部被曝の評価を下していることが理由として考えられる。ICRPの係数が疑問視されていることとは別に、「50mSvの内部被曝」をしても大丈夫と言う保証はどこにも存在しないのである。ICRPの勧告は、X線やガンマ線による障害が見て取れるまでの「上限値」を提示しているだけであり、決してそれ以下の「安全値」を定めるものではない。 摂取して吸収された放射性物質による内部被曝のメカニズムは明白であるため、吸収された分だけ被曝量が増えるのは当然である。健康に影響が出るかどうかは、母体内と胎内の免疫力の働きに頼るところが多いのである。症状が表れないからと言って細胞が全く「無害」な訳ではない。大人の人間には遺伝子や細胞の破損に対する修復機能が何重にも備わっているが、妊娠中に放射線による余計な負荷をかけない方が良いと言うのが健康を気遣う意味で国際的にも正論である。 |
一、 | 妊婦への案内としては、ICRPの外部被曝から割り出した基準値を利用せずに、「妊娠中の人工放射性物質の摂取は極力避けることをお勧めする」とはっきり言うべきである。一定の被曝量以下は安全であると言う印象を与えることは正しくない。 |
一、 | このことによって過度の心配を抑える方法に関しては、日本に捧げる形で4月4日に無料配布されたICRP
111勧告5に指示してある通り、飲料水と食品中の複数の放射線核種の検査を徹底的に行い、長期間に渡って管理して行くことで安心してもらうこと以外にない。 |
一、 | 補足として、3/24案内文に「なお、赤ちゃんの(胎児)の被曝量は、母体の被曝量に比べて少ないとされています。」と書いてあるが、内部被曝の場合はその逆である。JSOGの4/18案内で参考文献にもしている、CRR397/20016
のp.142に "The concentration of radioiodine in the fetal thyroid is always higher than in the mother's thyroid" =「放射性ヨウ素は胎児の甲状腺の濃度の方が母体より常に高い」と明記してある。 |
X線も人工放射能も「電離放射線」であるために、胎児への影響は細心の注意を払わなければいけないものである。子宮から離れた照射でも電離を起こした因子が胎児に影響を与える場合が考えられるからだ。放射線を扱う現場では殆どが外部被曝を対象にしていることに対し、放射能汚染が起きた地区の住民が気にしなければいけないのが内部被曝である。 |
||||||||||||||||
X線は一秒以下の外部被曝であり、細胞が受ける影響の平均値を計算しているのに対して、放射性物質を特定の部位に吸収/蓄積する内部被曝とは影響が全く違う。
両方とも体に負荷がかかるが、内部被曝の影響は放射性物質の核種、吸収率、生物学的半減期、妊婦と胎児の免疫力、多くの不確定要素に依存する所が多い。 |
||||||||||||||||
|
||||||||||||||||
Source: Pr. Chris Busby, ECRR, versus Dr. Jack Valentin , ICRP, 1(2) (http://vimeo.com/15382750 ) 41:00〜
|
||||||||||||||||
作成者:Shing02 (安念真吾) info@e22.com |
||||||||||||||||
参照リンク: 1 ICRP84 "Pregnancy and Medical Radiation" - J. Valentin (Ed.) ZIP file 2 ACOG Commitee Opinion Number299, September 2004, p4 http://www.ed.bmc.org/education/reading-library/radiology-procedures/Radiation%20In%20Pregnancy%20-ACOG.pdf 3 Unites Sates Nuclear Regulatory Commission: Dose Equivalent to an Embryo/Fetus http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/cfr/part020/part020-1208.html 3 ICRP90 "Biological Effects after Prenatal Irradiation (Embryo and Fetus) " - J. Valentin (Ed.) http://www.uclimaging.be/ecampus/rpr/rpr_2009/rpr2002_2009_effects_of_irradiation_in_utero.pdf 4 United States Nuclear Regulatory Commission: Standards for Protection Against Radiation http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/cfr/part020/ 5 ICRP111 "Application of Comission's Recommendations to the Protection of People Living in Long-term Contaminated Areas after a Nuclear Accident or a Radiation Emergency" - C.H. Clement (Ed.) http://www.icrp.org/docs/P111(Special%20Free%20Release).pdf 6 Contract Research Report CRR397/2001 http://www.hse.gov.uk/research/crr_htm/2001/crr01397.htm |
||||||||||||||||