「僕と核」
    (2006)

 

1. 原子力ってなに?


なにごとも、いちばん最初から始めるのが、肝心です。
途中からいきなり話されても、ちんぷんかんぷんです。

はじめからお話しますから、ゆっくり読んでください。

私たちが住んでいる地球は、宇宙の中にあります。それは、地球が宇宙の中で、星屑がくっついて産まれたからです。だから、地球にあるものはすべて、元から宇宙にあった物質が何十億年もかけて、地球の環境に適応するように、今ある形に細かく進化してきたのです。人も、動物も、魚も、虫も、草木も、岩も、すべてです。

なぜそれが本当かというと、この宇宙には「保存の法則」があるからです。
物質やエネルギーは、無から産まれたり、消えて無になることは絶対にない、という意味です。

人間は、自分が何でできているのかを知りたくて、小さな宇宙、ミクロの世界に目を向けました。発電ができるようになってからは道具も急速に進化し、20世紀に入って研究が飛躍的に進み、「ありとあらゆる物質は、原子の集まりによってできている」レベルまで突き止めました。原子とは、遺伝子よりも更にちっちゃい、1兆分の1センチの生命の単位です。

原子の中心には、すごく小さな「核」があります。その周りを更に小さい電子が、マイナスの極を帯びて、光に近いスピードで回っています。核は小さくて密度が高いため、実は原子の「中身」はほとんど空洞です。核がベースボールのサイズとしたら、電子殻は野球場をも上回るサイズです。

原子が外郭に帯びている電磁気は、重力よりも遥かに強く、固体が安定した形をとどめることを可能にしています。普段は気にかけないことかもしれませんが、二つのものが衝突するのも、誰かとがっちり握手を交わせるのも、重力によって地面に付いた足がそのまま沈んでいかないのも、原子や分子の持つ電磁気が反発するおかげなのです。

核の中身はというと、プラスの極を持った「陽子」、そして極をもたない「中性子」が双子のようなつくりで、とても強い「核力」でくっついています。核の中には陽子が詰め込まれるので、お互いに反発して具が破裂しないように中性子がまとめているのです。陽子や中性子の中にも、電子(ー)や陽電子(+)が素粒子として含まれていて、更に何億倍も細かいレベルまで行くと、最終的には、ひも状のエネルギーの振動であると予想されています。
つまり、原子の核というのは宇宙が大量生産するエネルギーのお団子なのです。

そもそも原子核が強い核力でまとまっていなかったら、宇宙に物質は存在しません。形をもたないエネルギーが浮遊しているだけになってしまいます。核のおかげで、いろいろな原子が産まれ、そして分子が産まれ、生命体が出現することが許されたのです。このことからも、原子核は人間の力では壊せないものだと長い間、信じられていました。ところが、生命の創造のきっかけとなった核の結び付きをほどいたことが、原子力の発見に繋がります。

原子力というのは、原子の核が秘めている力、それを放出する力のことを言います。原子の中を覗くことによって、核は高度のエネルギーを絶えず持っていることが分かったのです。なぜなら、あらゆる原子核は永遠に生きているのです。


<宇宙の成り立ち>


私たちの宇宙は、どのように産まれて、発展して来たのでしょうか。通説によると、宇宙は巨大な爆発によって誕生して、究極に高熱、高密度の状態から、何億年もかけて、だんだんと冷めていきました。何が爆発したかというと、それは無限の重力を誇るブラックホールだったかもしれないし、全宇宙の質量とエネルギーを内に秘めた、最初の原子、いわば原始の原子だったかもしれません。

「全宇宙の質量」ほどの重みが、一つの点、あるいは小さな原子に閉じ込められていたことなど、本当にあったのでしょうか?人間の想像を絶する世界ですが、宇宙の力を持ってすれば、数学的には可能な範囲なのです。私も、あなたも、全宇宙のありとあらゆる物質とエネルギーは、遥か昔、同じ原子の中に入っていたのです。

宇宙は誕生の瞬間から、遠心力によって広がりながら、超高密度な原子の持つ重力がまわりを引きつけるという運動を繰り返してきました。一点に集まった素粒子の雲が爆発して星が産まれたりする度に、超高熱の宇宙原子炉の中で、軽い原子たちが核融合を起こして、順番に重い原子をつくっていきました。私たちの太陽も、水素の核融合で熱をつくっている原子炉です。

こうして気が遠くなるくらいの時間をかけて、様々な状態で落ち着いた原子たちが、地球に存在している訳です。宇宙の75%を占めるのが一番軽い水素、Hです。そうです、宇宙は、ほとんどHなのです。


<体は何で出来てるか>


原子を単体の「元素=げんそ」になおして、原子番号(=電子、または陽子の数)の順番と、化学的な性質によって配列したのが、「周期表=しゅうきひょう」です。

たくさんの元素がありますが、生活に身近なものは、良く耳にすることがあると思います。人間の体や動物、植物、生きとし生けるものすべては、「有機物=ゆうきぶつ」とも呼ばれます。有機物のほとんどは、炭素、窒素、酸素、水素(C、N、O、H)の組み合わせ(分子)によってつくられています。

人体(細胞、遺伝子、栄養素、ホルモン、伝達物質など)の96%がそうで、空気の成分の99%もそうです。たった四つの元素が、自然レゴの基礎ブロックなのです。これらの元素は電子の数が少なく、かんたんなつくりであるから、結びつきも非常に安定していているため、進化の過程で高度な分子構造ができることを可能にしたのでしょう。

生命はその他にも、遺伝子に不可欠なリン(P)など、いくつかの元素を成分に必要としています。糖質、脂質、たんぱく質、ビタミンの有機物、「必須元素」または「ミネラル」と呼ばれる無機物の栄養素をふくめて、赤枠で囲ったものを周期表で見てみましょう。

 
 
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これで人間の「活動範囲」が大体分かると思います(それがポイント)。およそこれ以外の元素を人間が摂取する習慣はない、とも言えます。それでも、有機元素でできた化合物には、カフェイン、アルコール、ニコチン、塩酸、薬をふくむ人工化合物など、複雑なつくりで強烈なものもたくさんあります。

残りの無機物の元素は、鉱物やガスなどに混じって、地球のいたるところで発見されます。それらが、採掘、精製、加工されて、身のまわりの機械や生活の一部になっている訳です。元素の中では「鉄」が最も安定した原子核で、それより大きい核は安定度が減って行きます。ウランより高い原子番号を持つ元素になると、自然に存在しないので、人工的に作られます。 高エネルギーを持つ核ほど、一瞬しか存在できません。

要するに、人類は、長い研究と実験の結果、それぞれの元素の性質を知り尽くした上で、原子レベルでのさまざまな計算を可能にしたのです。

私たちの住む物理的な次元は、核力、電磁気力、重力の法則によって、隅から隅まで厳密に支配されているのですが、その宇宙の仕組みを更に究明するべく、世界中の研究所で大規模な実験が行われています。核が誕生する以前の素粒子を再現するには、直径数キロにも及ぶ加速器を建造したり、超レーザー光線を当てたりと、エネルギーがとてつもなく集中した状況をつくる必要があります。そのような環境は最近ようやく実用化されてきていて、人類は研究を押し進めることによって、宇宙の起源までをも解き明かそうとしているのです。

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